実験動物の移動に関する声明
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げっ歯類の胎児・新生児の鎮痛・麻酔および安楽死に関する声明(第2版、2015年)
日本実験動物医学会は、動物実験に用いられるげっ歯類の胎児や新生児の人道的な取り扱い方法や最良の安楽死法について2009年12月に声明を発表した。これは我が国ではげっ歯類の胎児や新生児を用いた多くの研究がなされているが、その人道的な取り扱い方法や安楽死法に関するガイドラインがないため、研究者が動物実験を立案する際、あるいは動物実験委員会が実験計画書を審査する際の基準がなく混乱があったからである。日本実験動物医学会は専門委員会を立ち上げ、最新の知見を調査すると共に、胎児や新生児を利用する試験に関する(各国の)ガイドラインなども併せて調査し、議論・検討を行った結果を公表した。それからほぼ5年間が経過した2014年9月に、日本実験動物医学会は2009年に公表した声明の内容と最新の知見(1, 2, 3)との間に齟齬があることを認識し、再度専門委員会を立ち上げることとした。なお、今回の専門委員会は日本実験動物医学会と日本実験動物医学専門医協会(以下、本学協会)との合同委員会とした。専門委員会は、最新の知見を収集し議論を重ねて、げっ歯類の胎児・新生児の安楽死に用いる方法の留意点について以下の見解に達したので、ここに報告する。
【背景】
げっ歯類の胎児や新生児は、新薬の開発過程における生殖発生毒性試験や、in vitro試験に用いる初代培養細胞の供給源などとして実験に用いられる。げっ歯類の胎児や新生児を動物実験に用いる場合には、成獣と同様に鎮痛・麻酔などの処置や意識を消失した状態で安楽死を施すなどの人道的な取り扱いが必要とされる(3)。発生に関する研究から、胎児の発生初期の段階では脳・神経系は疼痛を知覚できるほど十分には発達していないが、妊娠後期の胎児は侵害刺激に対して忌避反応を示すことから、知覚神経系が十分に発達していることが報告されている(4, 5)。しかしながら、哺乳類の胎児・新生児であっても、早熟性の種(モルモット)と晩熟性の種(マウス、ラット、ハムスターなど)では中枢神経系の発達の状態が異なり、マ
ウスやラットなどの胎児・新生児は、侵害刺激には反応しても脳は疼痛や不快を知覚する状態にないことが示されている(6)。この知見は従来の胎児・新生児に対する鎮痛の概念を大きく変更させるものであり、専門委員会はこの知見を基に前回の声明の内容を見直すこととした。
1. 疼痛管理
「人道的な取り扱いを考慮する必要がある」が意味するものは、「動物が苦痛を感じている」、言い換えれば、「個体として苦痛を感じるほど成熟している場合には疼痛管理を必要とする」である。このことに大きく寄与する因子として神経系の発達があることは言うまでもないが、特に、神経系が生理学的に機能していることが重要である(5, 7)。ここでは神経系の発達の程度を鑑み、胎児の発達段階を妊娠前期と妊娠後期に分け、さらに新生児を成獣と異なる一つの段階として、それぞれに疼痛管理の考え方を示す。
1)妊娠前期の胎児
妊娠前期の胎児は神経管の発達が未熟であり、疼痛を知覚するほど成熟していない。(げっ歯類の胎児・新生児の鎮痛・麻酔および安楽死に関する声明)また、自身で生命を維持する能力が備わっていないため、母体を安楽死させる、あるいは母体から摘出すること等により、母体からの血流が途絶えると疼痛・不快などを知覚することなく死に至る。従って、神経系が未発達の状態にある妊娠前期の胎児については、鎮痛・麻酔を施すことなく実験に必要な処置を行って良い。また、胎児を安楽死させる方法を考慮する必要はない。
2)妊娠後期の胎児
子宮内に存在して母体から血液の供給を受けているヤギの胎児は、母体から供給される強力な神経遮断作用、催睡眠作用や麻酔作用を有する物質により持続的に催眠状態にあり、疼痛刺激を知覚することがない状態におかれていることが報告されている(8)。この状態は哺乳類一般に保持されており、母体に対する鎮痛・麻酔処置が十分であれば子宮内の胎児に対して配慮する必要性はない(9)。また、母体が死亡した場合でも、子宮内の胎児は催眠状態のまま母体からの血流の途絶により死に至ることから、胎児を死亡した母体から摘出して安楽死を施す必要はない(3)。
麻酔下の母体から摘出された胎児については、覚醒する個体があることから何らかの処置が必要となる可能性がある。妊娠後期の胎児は、侵害刺激に対して忌避反応を示す。また、母体から摘出した胎児では、摘出後に自発呼吸を開始する個体がみられ、適切な環境が与えられれば生存することも可能である。従って、摘出した胎児を試験に用いる場合には鎮痛・麻酔の処置を行うこと、あるいは意識を消失させて速やかに安楽死させることが必要である。特に、モルモットでは、母体から摘出した胎児は疼痛や不快を知覚するので、妊娠34 日目以降のモルモット胎児には、摘出後速やかに鎮痛・麻酔を実施すべきである。一方、マウスやラットなどでは、妊娠15 日目以降の胎児は、侵害刺激に対して忌避反応を示すが、脳が痛覚や不快を認識できるほどには発達していないため、鎮痛・麻酔を実施する必要はない。
3)新生児
モルモットの新生児は成獣と同様に疼痛や苦痛を知覚することから、実験に際しては、成獣に準じて鎮痛・麻酔を施し、あるいは安楽死法を選択する。一方、マウスやラットなどの新生児は、生後も徐々に脳の機能が発達することから、疼痛や苦痛を知覚するようになるには一定の期間を必要とする。また、新生児のオピオイド受容体の数は成獣に比べて非常に多く、成熟するにつれて成獣の状態に減数すること(10)や、ラットの新生児は疼痛反応が成獣とは異なり、成獣と同様の反応を示すには生後2 週間ほどを要することも報告されている(11)。本学協会は、7日齢未満のマウスやラットなどの新生児では、疼痛や苦痛を知覚するほど十分には神経系が発達していないため、実験や安楽死に際して鎮痛・麻酔を施す必要はないが、7日齢以降の新生児に対しては、鎮痛・麻酔などの処置が必要であるとする。特に、生後2週間までは、低酸素状態に抵抗性であることを考慮して鎮痛・麻酔もしくは安楽死法を選択することが重要である。
2. 鎮痛・麻酔
胎児や新生児は成獣と異なり成長の過程にあることに配慮して、鎮痛薬や麻酔薬を選定することが必要である。特に、薬物の代謝・排泄に関わる肝機能や腎機能が十分に発達していないことに配慮して、用量・用法に注意する必要がある。この観点からペントバルビタールは、低用量では効果が不安定で高用量では致死的であるため麻酔薬として使用することを推奨しない(12)。
1)妊娠前期の胎児
妊娠前期の胎児は神経系の発達が未熟であることから、実験に必要な処置を施す際に疼痛に対する配慮は必要ない。従って、鎮痛・麻酔の処置を行わなくても良い。
2)妊娠後期の胎児
子宮内にある胎児に何らかの処置を施す場合、母体を十分に麻酔することに配慮すれば、胎児には特別の配慮をする必要はない。また、母体から摘出したマウスやラットの胎児は疼痛や不快を知覚しないことから、同様に、特別な配慮は不要である。しかし、母体から摘出したモルモットの胎児に何らかの処置を施す場合には、疼痛を知覚することに配慮して鎮痛や麻酔などを施す必要がある。マウスやラットなどの胎児に麻酔を施す場合には、イソフルランやセボフルランなどの吸入麻酔薬の使用や体温を低下させる麻酔法などが推奨される。ただし、胎児は低酸素状態に抵抗性であることから、イソフルランなどの吸入麻酔薬を用いた場合には、麻酔に要する時間が延長することに配慮して、詳細に観察する必要がある。なお、早熟性のモルモットでは妊娠34日齢以降の胎児を妊娠後期の胎児とする。
本学協会として推奨する麻酔法を以下に示す。
(i) イソフルラン・セボフルランなどの吸入麻酔薬の使用(麻酔期に至るまでに時間を要することに配慮する)
(ii) 胎児を直接、冷源に触れさせない条件での低体温(13)
(iii) 胎児に注入可能な薬剤の使用(肝機能が十分に発達していない場合があるので、用量、用法に配慮する)また、リドカインなどの局所麻酔薬、オピオイド類(ただし、パーシャルアゴニストであるブ
プレノルフィンは除外する)および非ステロイド性抗炎症薬の使用を推奨する。
3)新生児
モルモットの新生児に何らかの処置を施す場合には、成獣と同様に、疼痛を知覚することに配慮して鎮痛や麻酔などを施す必要がある。マウスやラットなどの新生児に麻酔を施す場合にげっ歯類の胎児・新生児の鎮痛・麻酔および安楽死に関する声明は、イソフルランやセボフルランなどの吸入麻酔薬の使用や体温を低下させる麻酔法などが推奨される。また、マウスやラットなどの新生児は低酸素状態に抵抗性であることか、イソフルランなどの吸入麻酔薬を用いた場合には、麻酔に至る時間が延長することに配慮して詳細な観察が必要である。
本学協会として推奨する麻酔法を以下に示す。
(i) イソフルラン・セボフルランなどの吸入麻酔薬の使用(マウスやラットなどの新生児は麻酔期に至るまでに時間を要することに配慮する)
(ii) マウスやラットなどの新生児を直接、冷源に触れさせない条件での低体温(13)
(iii) 注入可能な薬剤の使用(晩熟性の種の新生児は肝機能が十分に発達していない場合があるので、用量、用法に配慮する)
また、リドカインなどの局所麻酔薬、オピオイド類(ただしパーシャルアゴニストであるブプレノルフィンは除外する)および非ステロイド性抗炎症薬の使用を推奨する。
3. 安楽死
安楽死を実施する場合、安楽死に関わる作業者が経験する精神的不安、不快感、あるいは苦痛に配慮して科学的研究の目的を損なわない限り、最も心理的負担の少ない方法を選択することが望ましい。従って、頸椎脱臼や断頭などの方法は熟練者が実施することが必然ではあるが、選択する順位としては下位に置き、かつ、深麻酔下で実施することを推奨する。なお、安楽死を目的として深麻酔を実施する際には、先に示した麻酔法に加えてペントバルビタールなどの注射麻酔薬を使用することができる。なお、マウスやラットなどの新生児を安楽死する場合には、特に7日齢未満の新生児は疼痛や不快を知覚することがないので、麻酔を施すことなく液体窒素に浸漬する方法や断頭などにより安楽死させることも可能であるが、動物実験委員会によりその科学的必然性が審査されることを推奨する。
マウスやラットなどの胎児や新生児の安楽死法として吸入麻酔薬を用いることは、胎児や新生児は低酸素状態に抵抗性であることから死に至る時間が延長すること、死の確認が容易でないことから、本学協会としては推奨しない。また、極超短波照射による安楽死法も胎児や新生児用の機材が市販されていないことから、推奨する方法から除外した。しかし、本学協会が推奨しない方法であっても、動物実験委員会が科学的研究の目的を果たすために不可欠であるとの研究者の判断を承認すれば、成獣に使用している安楽死法を胎児や新生児に適用することは可能であると考える。
1)妊娠前期の胎児
妊娠前期の胎児は自身で生命を維持する能力が備わっていないため、特に安楽死させる必要はないが、モルモットの子宮から分離された胎児がVital sign を示す場合には速やかに適切な安楽死の方法を講じ、死に至る時間を延長させてはならない。
2)妊娠後期の胎児
妊娠後期の胎児を安楽死させる場合には、注射麻酔薬の過量投与や深麻酔下での化学的、あるいは物理的方法を推奨する。ただし、母体とともに安楽死させる場合には、母体を安楽死させた後積極的に胎児を安楽死させるために母体から摘出する必要はない。ただし、母体の死亡後に胎児が死に至るまでには時間を要することに配慮する(麻酔下の母体を放血により安楽死させた場合、出血停止後5分以上胎児を子宮内に留置する(14))。また、マウスやラットなどの胎児は、母体から摘出後であっても疼痛や不快を知覚しないことから、疼痛の軽減に配慮する必要はない。一方、モルモットの胎児は、成獣と同様に、科学的必然性が動物実験委員会で認められない限り、麻酔下に安楽死を実施する。
本学協会として推奨する安楽死法は以下の6 種類である。
(i) ペントバルビタールなどの腹腔内・胸腔内への過量投与
(ii) 塩化カリウムの心臓内投与(モルモットの胎児は深麻酔下にて実施)
(iii) 液体窒素への浸漬(モルモットの胎児は深麻酔下にて実施)
(iv) 固定液への浸漬(深麻酔下にて実施)*
(v) 断頭(モルモットの胎児は深麻酔下にて実施)
(vi) 頚椎脱臼(モルモットの胎児は深麻酔下にて実施)**
*;晩熟性の種の胎児であっても死に至るまでに時間を要することから、深麻酔下で実施す
ることを推奨する。
**;成獣の頸椎脱臼とは異なるため、頚椎損傷という表現がより適切と思われる。
3)新生児
モルモットの新生児や、疼痛を知覚する日齢以降(生後7日齢)のマウスやラットなどの新生児を安楽死させる場合には、成獣と同様に、注射麻酔薬の過量投与や深麻酔下での化学的、あるいは物理的方法を推奨する。なお、マウスやラットなどの新生児では吸入麻酔薬単独で安楽死させることは、死に至る時間を考慮すると人道的ではない。なお、マウスやラットなどの7日齢未満の新生児は、同種の胎児と同様に疼痛や不快を知覚しないことから、疼痛の軽減に配慮する必要はない。
本学協会として推奨する安楽死法は以下の8 種類である。
(i) ペントバルビタールなどの腹腔内・胸腔内への過量投与
(ii) 塩化カリウムの心臓内投与(7日齢未満のマウスやラットなどの新生児を除いて深
麻酔下にて実施)
(iii) イソフルラン・セボフルランなどの吸入麻酔薬(7日齢未満のマウスやラットなど
の新生児は除く)
(iv) 二酸化炭素(7日齢未満のマウスやラットなどの新生児は除く)*
(v) 液体窒素への浸漬(7日齢未満のマウスやラットなどの新生児を除いて深麻酔下に
て実施)
(vi) 固定液への浸漬(深麻酔下にて実施)
(vii) 断頭(7日齢未満のマウスやラットなどの新生児を除いて深麻酔下にて実施)
(viii) 頚椎脱臼
*;可能な限りホームケージにて二酸化炭素を徐々に置換する方法で実施する。
本声明では吸入麻酔薬の使用法については適宜コメントしたが、二酸化炭素の使用については言及していない。しかし、マウスやラットなどの胎児や新生児は低酸素状態に抵抗性であることから、二酸化炭素を麻酔として用いることはもとより、安楽死法に用いることも適切ではないと判断している。また、鎮痛・麻酔などの処置を必要とする胎児や新生児の日齢(胎齢)については、目安としての数字を示しているが、これらの内容を含めてここに記載した方法の是非は動物実験委員会で判断すべきと考える。
最後に、ここに記載されている内容は現時点での科学が証明している事象から判断した結果をまとめたものであることから、新しい事象が判明した場合には、本学協会として速やかに新たな見解を取りまとめるよう努力する所存である。
2015年8月11日
日本実験動物医学会
日本実験動物医学専門医協会
専門委員会委員
鈴木 真(委員長)、安居院 高志、黒澤 努、久和 茂、中井 伸子、森松 正美、山添 裕之、横山 政幸