現役専門医からのメッセージ

実験動物医学専門医の仕事のやりがいはどんなところですか?

最もやりがいを感じる瞬間

自分の治療によって動物の状態が改善した時はもちろんですが、やはり研究員と共にディスカッションし、実験目的の達成と動物福祉の達成が両立されたときに実験動物医学専門医としての達成感を感じます。

具体的には、研究者と実験デザインを共に検討し、動物に対して必要最小限の負荷で実験目的が達成できる計画を立案・実施することにより、科学的に新たな発見につながった時は最もやりがいを感じる瞬間です。

科学の進歩に貢献するだけでなく、動物の立場にも寄り添った対応を模索するのも実験動物医学専門医の仕事の特徴であり、やりがいに繋がる部分だと思います。

(製薬会社勤務 動物実験委員会(IACUC)委員長)

関係者の思いをくみ取る

動物実験委員会(IACUC)の委員を担当される方も多いと思います。地味な役回りながら、IACUCでの動物実験計画書の審議において自然科学者(研究者)と自然科学者以外の委員それぞれの考えや思いをくみ取り、計画書の質を高めるのも実験動物医学専門医の重要な役回りです。研究者には動物のケアがややもすると二の次になる傾向が見受けられ、これに対し自然科学者以外の委員は動物のケアについてイメージできても実験内容の理解はかならずしも容易ではないようです。両者の思いをくみ取り、相互の理解を深めることが可能なのは、動物のケアと動物実験の両方を理解している実験動物医学専門医のみといっても過言ではありません。

(製薬会社OB(管理獣医師および動物実験委員会委員を担当))

多様な仕事内容に専門知識をフル活用

実験動物医学専門医は、マウスから霊長類、時には魚、鳥、両生類まで、さまざまな種の生物学、獣医療の知識を用い、病気を診断、治療、予防します。また、研究者や技術者、飼育スタッフに、実験動物の専門的知識、ケア、取り扱いについて教育し、時には研究内容に対しても助言します。さらに、研究内容が国内外の規定やガイドラインに遵守しているかを監督し、動物実験の手順を審査し、倫理的な取り扱いと痛みや苦痛の最小化を審査する委員会で中心的な役割を担っています。このように、実験動物医学専門医の仕事のやりがいは、専門的な知識を駆使し、多様な仕事を高いレベルで実施する点です。

(北里大学 獣医学部教授 佐々木宣哉)

医学との連携で未来の健康と幸せを守る

私たちが普段受けている医療行為は過去の研究成果の蓄積によって可能となっています。視点を変えて、将来の医療の充実は現在の研究成果の蓄積によって可能になると言い換えることもできます。三次医療機関と呼ばれて高度で専門的な医療を提供する大学病院であっても、病気の仕組みがわからないために治療できないことがあったり、あるいはより良い治療法の開発のための試験研究が必要とされることがあります。そのようなときに、ヒトの代わりに動物を対象として試験研究することがあります。

各診療科の専門医はヒトを対象とした各診療分野での専門家ですが、動物を対象とした試験研究を行う際にはその分野の専門家の手助けを受けることで研究の精度を高めることができます。この時の専門家が「実験動物医学専門医」です。私は実験動物医学専門医として医学部と大学病院にある実験動物の施設で、試験研究の支援や、実験の対象となる動物の健康管理を担っています。自分たちの次の世代の人たちの健康で幸せな生活につながると考えると、自分の仕事に誇りをもてますし、やりがいとなっています。

(東京医科大学 石橋英俊)

研究の加速をサポートし、動物と人々の健康を守る

研究経験を有する、実験動物学・動物実験の専門家として、研究者や施設の管理者と対等な議論が出来ることに加え、自らが積極的に関与していくことで使用動物数の削減や適正な動物福祉施策の導入など、施設全体の動物実験の質を向上させることが出来ます。このことが研究スピードをさらに加速させることに繋がり、人々や動物の健康に寄与できるものだと考えています。動物のことを一生懸命に考えることで、動物だけではなく多くの人まで幸せに出来るという職業はなかなか無いのではないでしょうか。

(製薬会社勤務 管理獣医師)

困った時に頼ってもらえる存在

現在では、実験動物学、実験動物医学の進展により感染症事故などはほとんどなく、平穏に動物実験が行われているところがほとんどだと思います。ほかの世界と同様に、常にやりがいを感じるなどということなどは期待できません。

正直なところ、普段は、困ったときの〇〇さんというようなことが、やりがい・自己満足というようなところです。しかし、通常の研究者が味わうことのない達成感を味わうこともあります。

研究者、特に、実験動物医学に関係してこなかった方が、新しい実験系を構築しようとするときには、うまくいかずに悩むこともあります。そのような場合、実験動物医としての知識や経験と研究者としてのそれらを生かすことでスムーズに実験が行え、成果が上がるというような経験を何度もしています。信頼を得ることで施設運営がしやすくなるというおまけもついてきます。

機関の長の意向や各研究者の要望を取り入れて、施設管理・スタッフのマネージメントしていくことから、経営戦略や研究戦略、人事管理手法についても理解が必要です。この点では、普通の研究者ではあじわえないスケールで仕事を感じることもあります(偉そうにするとひどい目にあいますが)。特に、施設の新設・改造などは実験動物医の出番が多いイベントです。知恵の絞り方でヒトの動かし方、お金の動きが大きく変わります。自分の能力が数字で見える瞬間といってもいいかもしれません。

また、感染症や災害発生時などには自分の能力をフル回転させる場になります。COVID-19拡大期には、胃が痛くなるような思いをした関係者も多かったと思います。最後は「実験動物専門医として獣医学的判断しろ」となるからです。

一方で、これらを収束に導けたときの達成感は、通常のポジションでは味わえないものです。

ウザイのに、なかなか退職しない。なぜか再就職先がある。という先輩方がいるという面白い世界です。

(製薬会社勤務 獣医師)

常に最先端の研究に触れられる

私は研究所に勤めているので、他の研究者が行っている最先端の研究に常に触れることができます。適切なモデル動物や実験方法を提案して、わからなかったことがわかる、治らなかった病気が治る過程に関われることにやりがいを感じています。ただ、そのためには常に新しい知識を習得する必要があり、大変ですがやりがいのある仕事だと思っています。

(厚生労働省所管の研究所動物実験施設勤務 岡村 匡史、専門:小型げっ歯類)

専門家として、より高度な獣医療を提供

動物実験において動物の苦痛を少なくしたり、動物実験の精度を高めてより良いサイエンスを推進するのに貢献できるところです。実験動物医学専門医として専門医協会を通じて専門家集団を形成し、その中で情報交換を行うことによって、より高い水準の獣医療を提供できた時にやりがいを感じます。

(獣医学部 教授)

動物の元気な姿や研究者からかけられる言葉が励み

弱っていた動物が治療によって元気になった姿をみると、やってよかったと思います。実験者から感謝されたりすると、これからも頑張ろうという気持ちになります。

(製薬会社勤務 管理獣医師)

幅広い知識に基づくサポートで研究に貢献

動物実験を行う研究員が、必ずしも動物のことに詳しいとは限りません。ましてや法律や動物福祉のことになると周囲のサポートが必要なのではないかと思います。そこで実験動物医学専門医が研究員と一緒になって研究を行うことで、動物福祉的にも科学的にも適正な研究が行えます。獣医学の知識・スキルをフル活用して科学の発展や新薬の創出に貢献できるところがやりがいです。

(製薬会社勤務 管理獣医師)

絶え間ない自己研鑽で広く社会から信頼される獣医師に

寿命を全うする事なく、死の転帰を辿る事が大多数である実験動物の苦痛軽減などへの関与を通して、それらの福祉に貢献する包括的な業務は公益性があると考えられます。また、実験動物医学専門医は、実験動物の福祉を促進する業務に従事する事を介して科学研究の再現性を高め、人類の福祉に貢献する業務に従事します。

この業務を成し得るためには、獣医臨床手技だけではなく、獣医学の枠を超えたあらゆる学問分野に関する科学的素養を身に付ける事が求められます。実験動物医学専門医は、日常的に科学者コミュニティの中で業務を遂行するため、自らが同僚の科学者から信頼される科学者であり続ける事で広く社会からの信頼感を得る事につながると考えられます。

この事は、絶え間ない自己研鑽が求められる事を意味します。即ち、あらゆる側面において自らの進歩を求める獣医師には、またとないフィールドです。学際領域に身を置き、多様なバック・グラウンドを有する専門家にも認めてもらえるための修練を継続する事ができる事に、やりがいを感じる事ができるはずです。

(秋田県立循環器・脳脊髄センター 佐々木一益)

これから実験動物医学専門医を目指す方へ

世界的な専門医を目指して

(自身の実体験として)アメリカの実験動物医学専門医(DACLAM)のレベルは高いです。認定の難易度も日本の上を行きます。グローバルに展開している研究施設やカンパニーにおいては、日本の実験動物医学専門医(DJCLAM)の方々もDACLAMとじかに接する機会があると思われます。そうした際にDACLAMと対等に渡り合えるような専門医を目指してもらいたいです。

(製薬会社OB(管理獣医師および動物実験委員会委員を担当))

科学と動物福祉、双方の発展のために

研究者の要求と動物の福祉のバランスをとることは、非常に困難ですが、専門的でやりがいのある仕事です。科学と動物福祉の両方を発展させるという重要性を感じながら、未来を切り開いてください。

(北里大学 獣医学部教授 佐々木宣哉)

社会から信頼される専門医へ

世界的な動物福祉への意識の高まりを受け、動物実験施設において、研究と動物福祉とのバランスを最も理解している実験動物医学専門医の役割は今後さらに大きくなっていくことが想定されます。今はまだ、世間への負い目を感じる部分があるかもしれない動物実験ですが、実験動物医学専門医がいるのであれば安心して任せられるといった存在になるべく、専門家としての自負を持ち、これまでの知識・経験をいかんなく発揮していただける実験動物医学専門医になっていきましょう。

(製薬会社勤務 管理獣医師)

実験動物医学の「窓」になるような専門医へ

多くの方に認知されている資格ではありませんが、実験動物の必要性を一般社会に向けて発信する「窓」としての役割を担う大切な仕事です。時として実験者からは煙たがられ一般市民の方から非難を受けることがあるかもしれませんが、そのような環境に置かれてもなお、動物に寄り添った仕事を続けていくことこそ優秀な実験動物医学専門医の証といえます。決して楽な仕事ではありませんが、やりがいや達成感も多い仕事です。心から実験動物医学専門医を目指す獣医師が増えることを待ち望んでいます。

(製薬会社勤務 動物実験委員会(IACUC)委員長)

臨床経験も活かせる専門医の現場

日本の場合は、研究者が実験動物の管理をすることが多かったのですが、臨床経験がある専門医も求められています。最近は動物病院での勤務経験がある専門医も増えてきました。動物実験は動物実験計画書に基づき計画的に実施されていますので、突発的な対応はそれほど多くありません。

(厚生労働省所管の研究所動物実験施設勤務 岡村匡史 専門: 小型げっ歯類)

分野の発展を盛り立てていきましょう

人間社会が高度に発展し、どの分野でもコンプライアンスが盛んに叫ばれています。

動物実験を適正に行っていることを示すためにも専門医の役割はこれから軽くなることはありません。発展性のある分野をともに盛り上げられたらと思います。

(製薬会社勤務 管理獣医師)

既成概念にとらわれない、自由なフィールドを持つ専門医へ

実験動物医学は派手な領域ではないため、多くの獣医師から注目を浴びる事が少ないと考えられます。まだまだ未開のフィールドです。学際領域において、多様なバック・グラウンドを有する専門家と共に歩む日常は、自らの獣医師としての立ち位置を客観視する事にも役立ちます。即ち、学際的な領域に身を置く事で、獣医師としてのあらゆる能力が向上する可能性が高いと考えられます。このような背景を鑑み、既成概念にとらわれる事なく、自らのフィールドを開拓してみてはいかがでしょうか。何にも代えがたい充実した、独創的な人生になるかもしれません。

(秋田県立循環器・脳脊髄センター 佐々木一益)